道なき道を拓き、未だ見ぬ新しい価値を世に送り出す人「起業家」。未来に向かって挑むその原動力は? 仕事における哲学は…? 時代をリードする起業家へのインタビュー『仕事論。』シリーズ。

今まさに注目を集めている「ゼブラ企業」。「経済財政運営と改革の基本方針2023(通称「骨太の方針」)」にその推進が盛り込まれたことも記憶に新しい。今回は、日本にその概念を持ち込んだ第一人者、株式会社ZEBRAS AND COMPANY代表 田淵良敬(たぶちよしたか)さんに、起業までの経緯やビジネスへの想いなどを伺った。

共存し、成長する「シマウマ」の在り方を目指す

──まずはゼブラ企業ついて教えてください。

ゼブラはもちろん「シマウマ」ですが、シマウマは群れで行動し、カモフラージュして身を守り、仲間と協力して能力を発揮する動物です。

ゼブラ企業とは、株主だけでなく消費者、サプライチェーン、地域社会など、事業に関わるステークホルダー全体に真摯に向き合い、長い時間軸での成長を目指す企業のこと。

これは、「ユニコーン企業(時価総額10億ドル以上で未上場のスタートアップ企業)」と対置される形で名付けられました。

株主の利益を優先し、急成長・市場独占を目指すユニコーン企業に対し、ゼブラ企業は長期的な成長を重視します。

現在の資本主義のあり方に危機感を覚えたアメリカの4人の女性起業家が2017年に提唱したのがこの「ゼブラ」という概念。彼女たちは我々のルーツとなるZebras Uniteというコミュニティを組織し、現在につながるムーブメントを起こしていきます。

そのうちのひとり、マーラ・ゼペタはゼブラ企業の目標を「コミュニティや関係性、協力するということに関心をもち、リソースを循環させ、構築し続けることだ」と話しています。

ゼブラ企業の特徴は以下の4つ。

  1. ビジョンが共有され、行動と一貫している
  2. 事業成長を通じてより良い社会をつくることを目的としている
  3. 時間、クリエイティブ、コミュニティなど、多様な力を組み合わせる必要がある
  4. 長期的でインクルーシブな経営姿勢である

新しい考え方のように聞こえますが、実は昔の日本にはゼブラ企業が多かった。たとえば「老舗」の多くはそれにあたります。ゼブラ企業という考え方はアメリカで生まれたものですが、日本にはもともとあったものなんですね。

──その考え方にはどのように出会ったのですか?

2018年にイギリスのオックスフォード大学で行なわれたカンファレンスで、参加したセッションの1つがZebras Uniteの創業経緯を語るものでした。その内容がまさに自分が考えていたことと同じだったんです。

私はインパクト投資(経済的利益のみならず、社会課題の解決も目的とした投資)の仕事に長く携わっていましたが、そこで見た起業家たちは組織の最大化を目的としておらず、長期的な視点で資金を必要としていました

スタートアップなどに投資を行なうベンチャーキャピタルでは「資金を投入して、5年くらいで上場させる」ようなやり方が主流。そういう投資が必要なビジネスもありますが、そもそもそのような成長を目指していないスタートアップも存在します。

自分たちのステークホルダーに対してどういうインパクト(社会的影響、課題解決)を事業を通じて与えられるのか、ということを考えながら事業を組み立てる起業家にとって、利益最優先というやり方はミスマッチなんです。

Zebras Uniteが提唱する考え方は、まさに私の「違和感」に応えてくれたものでした。

──そして、田淵さんご自身も起業された。

そうですね。ちょっと話は遡りますが、私が社会人になりたてのころ、仕事とは別にプライベートで、今でいう「コミュニティづくり」みたいなことをやっていたんです

社会に向けてメッセージを持つ人たちの応援というか。アーティストや難民の救済活動をしている人や、性的マイノリティの権利を提唱している人もいて、数百人くらいのコミュニティをつくってイベントを開いたりしていました。

活動を続けているとポジティブなフィードバックをもらうようになって、人生のモチベーションが上がったんです。

当時私は商社にいて、飛行機のファイナンス部門にて何百億円ものお金を動かしていたのですが、このコミュニティで「人の心に近い世界」にも所属していた。この2つを合わせて何かできないかな、と思ったのがはじまりだったと思います。

そんな考えもあり、商社に在職中、バルセロナのビジネススクールに行くことにしました。

アドバイザーに「君が目指していることは説明が難しいけど、強いて言うならソーシャルアントレプレナー(社会的課題の解決を目的とする起業家)だね」と言われ、そこから「ソーシャルビジネスって何だろう」と興味を持ちはじめたんです。

その後、インパクト投資や経営支援に従事し、Zebras Uniteとの出会いを経て2019年の11月末にTokyo Zebras Uniteを立ち上げ、2021年3月に株式会社ZEBRAS AND COMPANYを設立しました。ゼブラ企業とその仲間たち、というわけです。

──インパクト投資もソーシャル(社会的)な面を持っていますよね。

当時のインパクト投資では、起業家支援においてカバーしきれない領域がかなりあったんです。むしろ、インパクト投資も受けられない起業家の方が多かった。そういう起業家を支援したかったんです。

話をしていても熱意のある人が多くて。自分が20代のころにコミュニティをつくりはじめたときの感覚にすごく似てるものがありました。志ある起業家をサポートできたら、という思いで今に至っています。

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いかにして「ゼブラ企業」のムーブメントを起こしたか
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